受けた後
ゲノム医療の基礎知識を深めたい人は、MGenAidをご参照ください
1. ゲノム医療
遺伝子変異、ゲノムの変化
私たちの体は、「ゲノム」とよばれる遺伝情報(ゲノム情報)をもとに形づくられています。自分と他人のゲノム情報を比べると、0.1%ほどの塩基配列が生まれつき違っており、生後に新たな違いが生じます。これらの違いのなかに病気の原因となるものがあります。
通常、病気の発症には、遺伝要因と環境要因の両者が影響します。その際、遺伝要因に関わる遺伝子変異があっても、病気を発症するとは限りません。ただし、一つの原因遺伝子に病的変異をもっていることで、ほぼ100%発症する病気もあり、これを「単一遺伝子疾患」といいます。
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腫瘍組織を構成するがん細胞のゲノム情報は、親から受け継いだままではありません。加齢や環境の影響によって一部が変化し、がん細胞特有の遺伝子変異をもっています。
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誰しも相当な数の遺伝子変異を持っています。問題は各遺伝子変異がどのくらい病気と関係するかであり、これは、データベースの情報と照合し、ルールや基準に基づいて総合的に判断します。病気の原因となる遺伝子変異を「病的変異」、その遺伝子を「原因遺伝子」といいます。
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ゲノム情報による病気の予測・診断
ゲノムの検査によって病気の原因となる遺伝子に変異を発見できれば、病気の治療や予防につながり、患者さんの血縁者における発症前診断などにも役立ちます。ゲノム情報に基づいて診断し、一人ひとりに合わせた治療や予防を行うのが「ゲノム医療」です。
単一遺伝子疾患のなかには、すでに治療薬が開発されているものがあります。そのような病気の原因遺伝子に病的変異が見つかって診断が確定すると、有効な治療を受けられる可能性があります。
また、原因遺伝子に、生まれつき病的変異をもつ遺伝性腫瘍では、若年から複数の臓器にがんが生じたり、同じがんに2回以上かかる可能性があります。その体質があると遺伝子診断されれば、がんの好発臓器に対するサーベイランス(積極的な検診)を受けることで、早期発見できる可能性があります。
※遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の場合、乳がんの手術方法の選択、がんの予防的措置(乳房や卵巣・卵管を切除するリスク低減手術)の検討ができる場合があります。
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単一遺伝子疾患には、原因遺伝子の種類や病的変異の種類によって症状の現れる臓器や程度の異なるものがあり、使用を避けるべき薬剤があるものもあります。遺伝子診断が為されれば病気の診断が確定するだけでなく、経過をある程度予測できたり、日常生活や医療管理に役立つ情報が得られたりすることもあります。
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現時点で明らかな症状のない人が、将来、病気を発症する可能性の有無を知るためにゲノム情報を調べることです。
※遺伝性腫瘍や単一遺伝子疾患をすでに発症している患者さんで見つかった病的変異を、血縁者が共有しているかどうかを調べるケースに限られます。
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赤ちゃんが生まれる前に、何か病気をもっているかを診断することです。生まれつきもっている病気(先天性疾患)の一部が出生前診断の対象となります。
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2. 遺伝カウンセリング
ゲノム情報の特殊性
生まれつきもっているゲノム情報は親から子に伝わるものであり、様々な特徴をもっています。ゲノムの検査を受けるとき、こうしたゲノム情報の特徴、特殊性に注意する必要があります。
医療機関では、診療に関わる一部の医療者のみがゲノム情報を閲覧できる専用のカルテを作成するなどの工夫がなされています。また本人の同意を得ずに他者や他の医療機関などにゲノム情報を提供することはありません。
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遺伝学的検査を受ける前に、ゲノム情報を知ることで自分の診断、治療、予防にどう役立つのか、検査結果が示す意味、検査を受けない場合の診療への影響、他の選択肢などについて十分に理解する必要があります。そのうえで、自身のゲノム情報を「知る」か、「知らないでいる」かを自由に選択する権利があります。
このために、あなたの意思決定を支援するのが、ゲノム医療の専門家による遺伝カウンセリングです。判断に迷ったり悩んだりするときは、遺伝カウンセリングを受けてみましょう。
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ゲノム情報は生物学的な父親と母親から半分ずつ受け継いでいますが、一部は血縁者(祖父母、親、子、きょうだい、いとこなど)と共有されます。
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医療におけるゲノム情報の取扱い
皆が安心してゲノム医療の恩恵を受けられる社会であるために、ゲノム情報が一人ひとりの個性と多様性の源であることを保障し、保護する仕組み作りが求められています。
世界には、ゲノム情報に基づく社会的な差別を禁止する法律を定めている国もあります。しかし、日本には現在そのような法律はありません。個人のゲノム情報が個性と多様性の源であることを保障し、保護する社会づくりが求められています。
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一般診療で病気の原因が「ゲノムの変化」によるものだと疑われた場合に、ゲノム医療専門外来の受診が紹介されます。ゲノム医療では遺伝カウンセリングを通して「ゲノムの変化」と「病気」の関係、血縁者への影響などについて理解を深めてもらいます。ゲノムの検査を実施した場合は、その結果に基づく診断、治療、予防などの医療管理や出現しうる合併症への対応ができるように関係診療科が連携を図り、その方に合った診療体制を整えていきます。
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3. ゲノムの検査
ゲノムの検査の基礎知識
ゲノムの検査(いわゆる遺伝子の検査)は、一般的には血液で行われ、対象となる病気はまだ限られています。ゲノムの検査を受けても、病気の原因であるかどうか明確にならないこと(検査の限界)があります。
2020年4月現在で、保険適用になっているのは140の遺伝性疾患(リストはMGenReviewsをご参照下さい)とがんゲノムプロファイリング検査等です。
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遺伝学的検査により、検査対象の病気別に、予測されるゲノムの変化を検出するのに適した方法で調べます。その原理は、DNAの4種類の塩基、A(アデニン)・T(チミン)・G(グアニン)・C(シトシン)の並び方(塩基配列)を読み取り、基準となる塩基配列(ヒト参照配列)と比較することであり、異なる箇所を検出します。
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ゲノムの変化と病気との関連性は、その時その時の科学的根拠(エビデンス)に基づいて判定されます。そのため、 患者さんが検査を受けた時点では両者の関連性が「不明」である遺伝子変異(臨床的意義不明変異 variant of unknown significance: VUS)が見つかることもあります。しかし研究の進展によっては将来、VUSと病気の関連性が明らかになる可能性があります。
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ゲノムの検査の費用・種類
ゲノムの検査には診療検査と研究検査があり、診療検査であっても保険適用でない場合、自費負担となります。
診療検査には、遺伝カウンセリングの費用、遺伝学的検査(生まれつきもっている遺伝子変異を調べる検査)の費用、フォローアップの費用が含まれます。対象疾患によって、保険または自費のどちらかで行われます。
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「診療検査」とは、検査結果が診断、治療、予防などの医療管理に役立つことが認められた検査であり、一部は保険適用にもなっています。一方「研究検査」は、その前の研究段階にあるもので、検査結果を医療管理に活かすためのエビデンスが十分でない場合と、診療検査だけでは原因遺伝子がカバーしきれないため補足的に実施される場合とがあります。研究検査を通じて注目する病気の解析データを蓄積していくことで、ゲノムの変化と病気の関係が明らかになっていくと期待されます。
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4. ゲノムの検査を受けた後
ゲノムの検査を受けた後
患者さんがゲノムの検査を希望し、検査を受けた場合は、その結果に基づいて治療や予防の方針を決定します。ゲノム医療の担当医は、関連診療科の担当医とゲノム情報を共有しつつ、適切なゲノム医療を継続的に提供できる(フォローアップ)体制を整えます。
ゲノムの検査結果のフォローアップには、以下の二種類の意味があります。
- 検査結果に基づいた治療や予防などの医療管理につなげられるよう、その方に合わせて関係診療科どうしの連携が図られます(2-5. 一般診療とゲノム医療との繋がりをご参照下さい)。
- 臨床的意義不明変異(variant of unknown significance: VUS)が見つかった場合: 研究の進展によって将来、VUSと病気との関連性が明らかになる可能性があります。医療機関や検査会社によってゲノムの検査結果のフォローアップ方針は異なるため、確認してみるとよいでしょう。
適切なゲノム医療を受けるためには、「受診動機の確認」、「家系情報の整理」、「かかりつけ医からの情報提供」の準備をしましょう。
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がんの好発臓器に対して積極的にサーベイランス(定期的な検診)を受けることです。サーベイランスによってがんの早期発見が期待されます。例えば、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)では乳房MRI、リンチ症候群では大腸内視鏡検査、リ・フラウメニ症候群では全身MRI(実施可能な施設は限られます)などでのサーベイランスが推奨されています。
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がん細胞に特定の遺伝子変異がある場合、それを標的とした抗がん薬が使えるかどうかを調べる検査です。
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